はじめに
2020年度は、新型コロナウィルスの大流行と世界的な混乱とともに幕を開けました。そのなかで気づいた点を何点か、簡単ではありますが所感としてまとめます。
コロナ禍でも法定調査は運用され続けた
コロナ禍の影響を大きく受けた商業施設の中には、一時的に稼働停止をおこなった施設も多くありました。建築基準法12条に基づく法定調査については、国土交通省から地方行政に対して、提出期限等に配慮を求めるコメントもありましたが、例年通り提出の督促書面を発送する行政は少なくなかったように思われます。
法定調査は、国民生活を守るための制度でありますから、コロナ禍でも制度の運用が止まることは望ましくありません。ただ、コロナ禍による経済的な負担を抱える民間事業者にとって、安全な施設稼働の重要性を重々認識していたとしても、一時的に収益率が大きく低下した施設においての法定調査費用負担は、少なからず圧迫感があったように思われます。そのようなメンタリティのなかで、例年は期限通り法定調査を実施していても、2020年はなかなか実施見通しがたたず、結果的に督促の書面が届くという構図もあったのではないかと考えております。
もちろん法定調査は必ず実施されるべきですが、例年通りの杓子定規的な督促書面を発行するのではなく、とくに大打撃を受けている民間事業者に対して配慮を示す書面があれば、今後の調査実施に対する動機付けにもプラスになったのではと思います。
担当行政もコロナ禍の影響があった
建築基準法12条の法定調査におけるコロナ禍の影響は、民間事業者等の施設所有者・管理者だけではなく、担当行政にも少なからずありました。
まず、窓口対応をなるべく減らすために、郵送提出やメールベースでのやり取りをすすめる担当行政が増加したように思われます。これが一時的なのか、今後も続くのかはわかりかねますが、スムーズなワークフローと書類審査精度が担保されるのであれば、郵送提出やメール中心のやり取りが主流となることは、官民ともに生産性の向上につながるのではと思われます。
しかしながら、もともと建築基準法12条の法定調査の行政担当者が1,2人のみ、という地方自治体も多いなかで、さらにコロナ禍による働き方の制限をうけて、対応能力が著しく低下している担当行政もありました。これはそもそも担当キャパシティがぎりぎりの状態であることが平時より放置されていることに問題があり、行政担当者の負担を考慮した改善があることが望まれます。
withコロナ時代の法定調査のあり方
法定調査は、実際に施設を人間が調査するアナログな作業が必須であることから、withコロナを契機にすすんだ「脱ハンコ」「DX」「テレワーク化」を単純に当てはめることはできません。
ただ、建設業界に近い業種では、単純な現場人工でコストを算出したり、費用の根拠とする慣習が多々あるため、接触人員のコンパクト化等が求められるコロナ禍・withコロナ時代においては、法定調査のあり方や考え方にも変化が求められるのではと考えます。
前述の通り、法定調査は実際の作業が必要となる業務ですから、業務が円滑に実施可能な最低限の人員は確保されなければなりません。しかしながら、人工を必要以上に増やすことで、費用増の根拠や示威的な意味合いを込めている場合、そのような企業体質は中長期的には淘汰されていくのではないかと考えます。また人工に頼りすぎた業務価値の考え方は、むしろ、むやみやたらな価格競争につながりかねず、結果的に制度の形骸化や市場の崩壊につながります。
ですから、法定調査業務において、調査事業者は中小大規模かかわらず、自分たちの業務価値を今一度見直し、一人当たりの生産性の向上や持続可能社会への取り組み等の付加価値をコツコツと積み重ねることで、自社や自社業務の価値を高め、withコロナ時代や次の時代に対応していくことが求められているように思います。
さいごに
コロナ禍は、世界中の人々に悲しみやストレスや行動変容を引き起こしました。しかし、惰性的な体質を見直す契機にもなります。基準法12条の法定調査制度は、安心・安全な国民生活を守る制度であることを今一度意識して、官民ともに、一段アップグレードした次の時代の制度運用を模索する時期にきているのではないでしょうか。